1台6~10役の万能調理器ーInstant Pot レビュー:150ドルの万能調理マシンが便利すぎて、キッチンが急にピカピカになった

ウン万円する炊飯器、1万円のヨーグルトメーカーを取り寄せ、圧力鍋を2回も買ったこれまでの努力は一体なんだったのか…。

アメリカで飛ぶように売れ、万能調理マシンの代名詞ともなっている「Instant Pot(インスタントポット)」。この近所でもだいぶ信者が増えてきたので、150ドルの上位モデル「Instant Pot Ultra」を100ドルの特価セールで試しに買ってみたんですけど、なんかもうキッチンが急にピカピカになっちゃって後戻りできない便利さです。

おいしくて、はやくて、軽くて、安全で、節電になるし、予約も温度調整もできるし、掃除も楽で、放ったらかしにして犬とジョギングまでできちゃうんですよ! いや~子守りしなくていい調理器具がひとつあるだけでキッチンライフってこんなにも変わるものなんですね。びっくり。

日本でもヘルシオやクックマスターが人気だし、炊飯器がウン万円する時代は意外な方向から終わってしまうのかもしれません。

Instant Pot Ultra

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価格:149ドル(約16,500円)(私は母の日セールで100ドルで買った)

これは何?:自動調理鍋(AI電気圧力鍋)

好きなところ:おいしくて、はやくて、軽くて、安全で、安くて、節電になるし、予約も温度調整もできるし、掃除も楽で、放ったらかしにして犬とジョギングまでできるところ

好きじゃないところ:蓋の縁が安っぽい以外、とくに思いつかない

開発したのは、自分が創業した会社を追われたAI博士

インスタントポットを発明したのはカナダの首都オタワに住むロバート・ワン(53)。コンピュータ工学博士で、専門はAIです。

自分で共同創業したモバイルメッセージアプリの会社を追い出され、傷心のまま家にいたら2人の子育てに追われて外食がちになっていることに気づき、「炊飯器にいろいろくっつけて自動で何でもつくれるようにしたら、お家でヘルシーなご飯が食べられるのに」と思いつき、5万ドル(約555万円)のわずかな資金を元手に1年半かけて開発した全自動圧力鍋で2010年、Double Insight社を創業しました。

ウォルマート、ターゲット、コールなどの大手量販店では2010年から売られ、毎年2倍のペースで着実に成長を続けていたのですが、今のような社会現象を生むきっかけになったのは2016年7月のアマゾン砲です。Amazon プライムデーのたった1日で21万5000台が売れる年間最大の記録的ヒットとなり、Instant Pot Duo(現在レビュー2万8000件超え)は昨年の結婚祝いギフトNo.1、ウィッシュリストNo.1入りを果たしました

昨年11月の集計でも前年比79%増の3億ドル(約329億円)の年間売上を達成しており、人気は衰える気配もありません。

「スリーパー」マーケティング

これだけ広まったのはひとえにクチコミです。新聞TV広告予算ゼロの零細スタートアップなので(今も従業員数25人)、ブロガー200人と各国料理のレシピ本著者に製品を贈呈し、ネットに上がったレシピを同梱の取説にURL入りでどんどん載せて版を重ね、メーカーとインフルエンサーとユーザーが三位一体で栄えるフィードバックループをつくるという、地道な努力が功を奏しました。

限られた予算の中で、マスではなく限られたインフルエンサーにのみターゲットを絞って粘り強く広告を展開し、徐々に信頼を勝ち得ていくアプローチを、ハーバードビジネススクールのSunil Gupta教授は「スリーパー」マーケティングと呼んでいます。うさん臭くて最初は相手にされなくても、忘れた頃に信頼筋からよい噂を吹き込めば人は「へ~」となるんだそうな。新規参入組は見本にしたい事例ですね。

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Photo: satomi
取説は現在第4版。素敵なレシピを考えて広めてくれた人気ブロガーとシェフを表紙でフィーチャー

Facebookファングループは現在メンバー139万人。投稿は今日1日だけで628件あり、ほとんどはつくった料理の報告です。YouTubeにも死ぬほど動画があがっていて、みんな庶民的な台所で何やらおいしそうなものをつくっており、「こんなむさ苦しい人でもあんな旨そうなものが作れるのか!」と勇気がもらえます。

オーブンもコンロもお鍋も各家庭によって規格が違うけど、Instant Potは全員同じなのでレシピを共有しやすい。それもいいみたいですね。

1台6役で99ドル、10役で149ドルだけに外観は安っぽい

下調べを十分したんですけど、梱包を解いて最初に感じたのは、安っぽさでした。蓋の縁も粗削りで、深夜のTV通販のきわもの家電っぽいオーラがそこはかとなく漂っています。まあ、定価149ドル(約16,500円)ですからね。圧力計、温度計、タイマー、プロセッサが内蔵され、1台10役(圧力鍋、スロークッカー、蒸し器、鍋、フライパン、炊飯器、保温器、煮沸消毒器、ヨーグルトメーカー、スーヴィード=低温調理)こなしてこのお値段。蓋の縁までお金が回らなかったんでしょう。

Ultraでは蒸気バルブで手をやけどしないように、右側にちっちゃな調整ボタンがついています。このボタンもカチッとこないうえに、押すと減圧、回すとぴょ~んとヘソが上がって密閉という、直感と真逆の謎仕様。何度予行練習しても不安でたまらなかったんですが、調理中は蒸気で圧の開閉は嫌でもわかるので、考えなくても使いこなすことができました。

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Photo: satomi
そこはかとなく怪しさが漂う外観

同梱のしゃもじは足で立つタイプで、「わかってるなあ」と感心しました。これなら、しゃもじホルダーも省けますもんね。

置き場所つくったらキッチンがきれいになった

買ってしばらくは、置き場所を掃除する時間がとれなくてそのままになってしまいました。理想的な置き場所はシンクとレンジの間、まな板の隣の一等地です。マグカップを収納し、横長のかごを縦長のものに変えたりしたら見違えるほどスッキリしました。なんでもっと早く整理しなかったんだ!?

調理開始! ご飯は本当に焦げつくのか?

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Photo: satomi
炊飯器で1時間半かかる混ぜ炊きも、加圧4分でふっくら

さて、いよいよ調理です。まずは「焦げつく」と噂のご飯からつくってみました。

うちは白米好きな人がいるので玄米に白米を混ぜて炊いています。炊飯器でやると邪道なので吹きこぼれが出て掃除が大変。圧力鍋はパッキンの隙間から蒸気が漏れるとロケット発射のようになってガスコンロが風前の灯火になります。ずっとつきっきりです。

でもインスタントポットは時間をセットするだけで吹きこぼれゼロでした。シューシューする音すらないままにおいしく炊きあがりました。水加減は、ボウルにざるを重ねて泡立て器でカシャカシャ洗米して何度か水を換え(手がぬれない)、ざるに上げて30分放置し、カップですりきりながら測って入れ、同量の水を入れるという黄金則でやったせいか、焦げつくこともありませんでした。

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Photo: satomi
焦げ付きなし。スポンジでささっと洗えます。炊飯器とまったく同じ

気になる調理時間は加圧4分、安全ロックピンが下がるまで10分放置、です。1時間半近くグツグツボコボコする炊飯器に比べたら、予熱10分+加圧14分+余熱で玄米ご飯が炊けるのはとってもエコだと思います。私はタッパに移す派ですが、保温もできます。

あずきも5分。殻が蒸気口に詰まらない!

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Photo: satomi
5分加圧後、安全ピンが下がるまで放置。砂糖とお塩を入れてソテーモードで煮詰めること5分で完成

次にわが家のソウルフード、もちケーキに混ぜ込むあんをつくってみました。

豆の圧力調理は要注意で、蒸気口に殻が詰まると鍋が爆発します。なぜ知っているのかと言うと、一度爆発させて台所がえらいことになったから! いや~あのときは天井から何からが豆だらけになって、ボストンマラソンテロの凶器が圧力鍋というのは嘘じゃなかったんだなあって思い知りましたよ。

大爆発以来、圧力加熱中は殻が詰まってないかずっとシューシュー音がすることを確認していないと怖いんですけど、インスタントポットは詰まらない弁で安心でした。蓋の裏側に茹で汁がつかないのも地味に驚きました。蓋の掃除も要らないし、重い圧力鍋をシンクで洗わなくても内釜を取り出して洗うだけで済むので、後片付けも一瞬です。

ちなみに小豆はひと晩漬け置きしました。インスタントポットは漬けなくてもいいのがウリなんですが、乾燥豆で16~20分かかるところ、漬けると4~6分で済むと取説に書かれているし、風味もおいしいです。私は料理があんまり得意なほうではないので、漬けるだけでおいしくなるなら絶対漬けるのを選びますよ、はい。

気になる時間は圧力鍋モード5分+放置で完全に火が通りました。そのまま砂糖と塩を加えてソテーモードに切り替え、お玉の背中で潰したりなんぞしながら煮詰めるだけで完成です。茹で水は捨てなかったので素朴な味わいだけど、10分で3㎏もあんができるってほんとに得した気分。週末のもちケーキも飛ぶように売れました。

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Photo: satomi
350円の小豆で3kgのあんができたよ

ヨーグルトメーカーよりおいしいぞ

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Photo: satomi
15分の加熱+10時間放置でヨーグルトのできあがり

うちはヨーグルトは手づくりです。日本から取り寄せたヨーグルトメーカーは40℃で7時間保温しますけど、インスタントポットは「15分間、Warm(保温)モードにしてプラグを抜いておけば10時間でヨーグルトになる」とあります。ヨーグルトボタンのない古い機種の記事をそのまま取説に転載しているだけなのかもしれませんけど、試しにやってみました。

牛乳1リットルをひと煮立ちさせて雑菌を殺し、40℃まで冷まし、ヨーグルト半カップを混ぜ混ぜして、熱湯消毒した容器に分け(私は無糖ですが、アメリカ人は練乳をたっぷり混ぜるのが好き)、インスタントポットに腰がかぶるくらいまでの水(1リットル)と入れて蓋をして15分温め、10時間放置で完成です。超高温殺菌牛乳(Ultra pasteurized milk)なら煮沸の必要もありません。温度は記載がなかったので、ヨーグルトの標準の40℃にカスタム設定(Ultraは温度が選べる)してみました。

気になるお味は…ヨーグルトメーカーよりずっとマイルドで濃厚にできました!

バナナブレッドも15分

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Photo: satomi
完熟バナナにありものを混ぜて準備中。まな板の隣におけるから調理もラクちん

すっかり圧力鍋爆発フォービアを克服して気をよくした私。バスケットの底にそばかすだらけになったバナナを2本発見し、バナナブレッドをつくってみることにしました。いや~インスタントポットがあると台所の生ごみ予備軍もどんどんスープやおいしいものに化けていきますよ~はい~。

ブレッドといってもイーストは使いません。ボールにバナナを放り込んでフォークの背で潰し、室温バター(なければオリーブ油でもサラダ油でも)、卵、ミルク、さとう、塩ひとつまみ、粉(小麦粉でも全粒粉でも、ここではココナッツフラワーなんかも少し加えてます)、ベーキングソーダ、棚にある木の実とレーズン、チョコチップなんぞテキトーに混ぜ混ぜして型に入れて焼くだけです。

インスタントポットに中敷き、水を500ccぐらい入れて、布巾でくるんだ型を沈め、ケーキモードで15分加熱してみました。布巾でくるまないと水滴がケーキに落ちちゃうので(アメリカ人はペーパータオルを上に貼り付けるみたい)。あと、8インチ型だと半径ギリギリで取り出せなくなっちゃうし、内釜のキズ防止にもなりますからね。うちはクリップがひっかかってどっちみち入らないので、上に超浮いたまま蓋をして加熱しました。

ネットのレシピにはどれも1時間とあるんですが、それってオーブンの加熱時間…。「蒸しパンなんて15分で蒸せる…よね…」と思ったら、まあ、薄いこともあって蒸し上がりました。10分でもよかったかな。今度実験してみよっと。

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Photo: satomi
オーブンほどパサパサしない。翌日もしっとりモチモチで大満足

さて、そろそろ納豆が粘ってきたようです…

まあ、ほかにもいろいろ紹介したいものはあるんですが、このぐらいにしますね。まだ19時間だけど、納豆もだいぶ粘ってきました。途中経過を報告します、じゃーん!

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Photo: satomi
納豆ちゃん

ちょっと加圧15分の割には豆(その辺にあった粗悪品)が柔らかくなり過ぎてドロドロですな…。10分でいいのか…すご…! 豆は3個重なるぐらいの厚みが理想です。1パウンド(454g)だと少し厚みが出すぎちゃうのかもしれませんね。今度は分けて重ねよ…。水分と窒息は大敵なので、蓋は密閉しなかったんですが、やや窒息気味に見えたので、ここで混ぜたら、このあとものすごい勢いで粘りが増しました。冷蔵庫で寝かせて明日食べるとします。

日本でも使えるの?

プラグは三又なので、数百円で買える変換プラグが必要です。気になるのは電圧差ですよね。120ボルトの米家電を220ボルトの欧州で使うときには変圧器が必要ですが、日本は北朝鮮並みに非力(安全仕様)な100ボルトなので変圧器ナシでも東京で使えてるよ、とRedditに書いてる人がいました。変圧器は要らないみたいですね。

まだ並行輸入のマニアの製品ですけど、炊飯器は今海外でとんでもない進化を遂げていて、あのアメリカ人がご飯炊くとか、料理を楽しみに家に帰るとか、健康のために揚げ物控えて鍋に走るとか、ちょっとひと昔前では考えられなかったようなことが現実に起こっています。キッチン家電メーカーさんはこのトレンド、要マーク。

Photo: satomi
Source: Instant Pot, Amazon, Quartzy, NPD, NPR

(satomi)

 

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