珍しければ、みんな見る。そして、それが個性になっていく。

手術を40回以上繰り返した顔 恋に臆病だった私を変えた友と夫の言葉

恋をするとき、あなたは相手の外見を気にしますか? 顔の変形やアザ、マヒなど特徴的な外見のためジロジロ見られ、恋愛や学校生活、就職で苦労する「見た目問題」。顔の手術を繰り返してきた河除(かわよけ)静香さん(44)は「こんな見た目だから、私は恋愛なんて縁がない」と思っていましたが、今は最愛の夫とともに幸せな家庭を築いています。静香さんから聞いた、外見に悩む人が恋に前向きになるためのヒントを、著書「この顔と生きるということ」から抜粋します。(朝日新聞記者・岩井建樹)
『この顔と生きるということ』(岩井建樹著、朝日新聞出版)

「ばい菌がうつる」 いじめられた子ども時代

富山県に暮らす静香さんは生まれつき動静脈奇形を抱え、血管の塊が口や鼻にあり、形が普通と違います。これまで血管の塊を切除する手術を40回以上繰り返してきました。子どものころから、いじめられました。

「保育園のとき、普段は遊んでくれない男の子が、私の手を握って『目をつむっていてね』と言ってきました。そして、『こっちに来て』と私を誘いました。男の子にうながされて目を開けると、数人の子どもたちが笑っています。ふと足元を見ると、私は吐しゃ物の上に立たされていました」

「小学生になると、給食当番で配膳しようとすると、『ばい菌がうつる。汚い』と言われました。フォークダンスで手をつないでもらえなかったこともあります。中学生のときには、社会科の授業で『基本的人権の尊重』を学んだ直後、男子生徒に『おまえなんかに基本的人権はない』と言われました」

幼少期の静香さん。「アヒルのガーコ」とあだ名をつけられた(静香さん提供)

幼少期の静香さん。「アヒルのガーコ」とあだ名をつけられた(静香さん提供)

「私みたいな顔だと、恋愛なんて…」

思春期になった静香さん。好きな人はいましたが、「こんな見た目の私なんて……」と気持ちを打ち明けることはできませんでした。いじめられた経験から男性への苦手意識も強く、男性を避けました。

「男性と接することに臆病になっていた私を変えてくれたのが、友人でした。短大の卒業旅行で、温泉に行きました。温泉につかっているときに恋愛の話題になり、『私みたいな顔だと、恋愛なんてできないよね』と漏らすと、友人が『なんで、そんなことを言うの?』と泣きながら叱ってくれました」

「その言葉を聞いて、私も恋愛してもいいのかなと思えるようになりました。そして、男性を避けるのではなく、女性を相手にするのと同じように普通に接しようと決めました」

友人の言葉に背中を押されるように、中学時代から好きだった男性に告白します。

「結局、振られてしまいましたが、彼は誠実な対応をとってくれました。長年の思いを伝えることができて、『大仕事を果たした』と、とても心が晴れやかになりました。実は私、その彼も含めて3人の男性に告白しました。全部振られているんですけど、恋愛について後ろ向きだったのがウソのように前向きになれました」

静香さんと、夫の悟さん

静香さんと、夫の悟さん

顔の話題をタブーにしない

短大を卒業後、静香さんは5回ほどお見合いにも挑みましたが実りませんでした。ただ、知人から「あなたの性格は武器。明るさや面白さが伝われば大丈夫」と励まされます。その言葉を信じ、臆することなく男性に話しかけました。そして当時の職場で出会ったのが、今の夫、4つ年上の悟さんです。

「職場のグループで飲みに行ったり遊びに行ったりしていました。数年間はそんな関係が続き、あるとき『2人で映画に行こう』と誘われ、お付き合いが始まりました」

「付き合い始めて1カ月後のデートの帰り、車内で悟さんが急に怒り出しました。『顔のことを、なぜ話してくれないんだ』と。私が顔のことを話さないので、自分が信頼されていないと感じていたようです。私は人からジロジロ見られてつらいこと、鼻血が出やすいことなどを打ち明けました」

「すると、悟さんは『人から見られるのが嫌なら、おれが君より目立つ着ぐるみを着て、隣を歩いてやる』と言ってくれました」

悟さんは「これから付き合う上で、顔の話題をタブーにしたくはなかった」と当時の思いを振り返ります。悟さんは、静香さんの魅力について「社交的で、言動が面白い。見た目よりも内面のほうが重要でした」と言います。

悟さん30歳、静香さん26歳のとき、結婚しました(静香さん提供)

悟さん30歳、静香さん26歳のとき、結婚しました(静香さん提供)

消えないコンプレックス

2人は悟さん30歳、静香さん26歳のときに結婚。その1年後に、長男が生まれました。ただ、出産後、鼻の血管からの出血が止まらなくなってしまいました。

「手術して出血は治まりました。でも、皮膚が盛り上がってしまって。治療の中で、歯を3本失いました。子どもを生んだことは最高の幸せでした。ただ顔の形がさらに変わってしまった」

「それ以来、家から出るとき、マスクが欠かせなくなりました。マスクをすると、見られない安心感があります。でもマスクを手にしたことで、外したら見られるんじゃないかという恐怖心が強くなりました。その怖さは年々、強くなっています」

2018年にも大量に出血。富山県内の病院では処置できず、東京都内の病院に入院し、治療しました。その際、鼻の骨を取り出したため、鼻の形が変わってしまいました。

「鼻がペシャンコになってしまいました。手術のたびに、顔の変形の深刻度が増しているような気がします。見た目へのコンプレックスはまったく消えていません。むしろ悪化しているかも。これからもずっと続くと思います。簡単に『顔を受けて入れている』とは言えません」

長男出産後、静香さんは出血が止まらなくなり治療を受けました(静香さん提供)

長男出産後、静香さんは出血が止まらなくなり治療を受けました(静香さん提供)

外見に自信なくとも「良いところはある」

恋愛や結婚は幸せになるための絶対条件ではありません。だから無理に彼氏や彼女をつくる必要はないでしょう。ただ、内心は恋愛したいけど、見た目に悩んで恋愛に積極的になれない人たちはどうすればいいのでしょうか。静香さんは「調子に乗ることですよ」と言います。

「外見にコンプレックスがある人が『こんな自分なんか……』と思う気持ちは痛いほどわかります。でも、自分が卑屈になったら、相手に好きになってもらえません。自分にも良いところがあるんだと調子に乗って、勇気を出して思いを伝えるしかないです。もし相手が見た目を理由に拒絶するなら、その程度の人だったと思えばいいだけですから」

「他人のアドバイスを素直に信じることも大事です。私の場合、知人に言われた『あなたの武器は性格』との言葉を信じたことが今につながっています。自分で自分の魅力を見いだせなくても、他人が気づかせてくれることもあります」

悟さんと出会い、静香さんは自分を認められるようになりました。

「私はずっと自分に自信がなかったんです。もし銀行強盗に鉢合わせて、誰かが人質にならないといけない状況に遭遇したら、自分が人質になるべきだと子どものころから思っていました。自分は他人より劣った、価値のない人間だという思いが頭の片隅にあったので。でも、夫と出会い、結婚して、『自分も大切な存在なんだ』と、心の底から思えるようになりました」

静香さんは今、見た目問題を知ってもらおうと、自らの体験に基づいた一人芝居を各地で披露しています

静香さんは今、見た目問題を知ってもらおうと、自らの体験に基づいた一人芝居を各地で披露しています

「この顔と生きるということ」発売中です

アルビノや顔の変形、アザ、マヒ……。外見に症状がある人たちの人生を追いかけた著書「この顔と生きるということ」(岩井建樹、朝日新聞出版)が、今年7月に出版されました。以下のリンク先から購入出来ます。(アマゾンの販売ページに遷移します)
『この顔と生きるということ』(岩井建樹著、朝日新聞出版)

Related posts